今夜、お別れします。
田丸さんの考えが読めずに戸惑う私の隣で、桐谷が大きく息を吸ったのが分かった。
「田丸さん、彼女は……萌奈は俺の恋人です。二度とそういう理由では誘わないでください」
思わず耳を疑ってしまった。
信じられない思いで隣にいる桐谷を見つめる。
「桐谷、どうして……」
どうして、今そんなことを言うの?
桐谷は私のことなんてもう恋人だとも思ってなくて……千歌ちゃんと……。
「どうしてって、なにが?自分の恋人に他の男が近づいてきてたら、普通止めるよな?それともなに?萌奈の中では既に俺は恋人でもなかった?」
桐谷の声が、ほんの少し震えていた。それが怒りを必死で抑えているせいだと分かる。
「違う……そんな風には思って……ないでも……」
桐谷に聞きたいことはたくさんあった。
でも、うまく言葉にできない。
「……ここから先は、2人で話したらいいんじゃないですか?邪魔者は去りますよ。痴話喧嘩に巻き込まれるのはごめんだ」
田丸さんが伝票を手に立ち上がり、私を見て小さく笑った。
まるで「あとはうまくやれよ」とでも言うように。