今夜、お別れします。
「何があったかは、話してくれないんでしょ?どうせ。……羽山さんって、結局は俺のこと信用してないもんね」
棘だらけの言葉に、自分の浅はかさに打ちのめされる。
「頭、あげなよ。俺が君を怒っているみたいに見えるよ」
そんなつもりはなかったのに、周りにそう見えてしまうのは田丸さんに対してさらに申し訳ない。
慌てて頭をあげた。
目の前に影ができて、視線をあげると至近距離に田丸さんの顔があった。
え?
一瞬何が起こったのか分からなかった。
けれど、呆然と立ち尽くす私の唇に、確かに触れる熱は、自分以外の体温。
「……!……やっ、」
自分に何が起こったのか、たっぷりと時間を要して、だけど気づけた瞬間、私は田丸さんの胸を突いて離れた。
「な、なにを⁉︎」
「なにをしたのか、分からないの?キスでしょ?mouth to mouth、人工呼吸じゃないからね」
キスだと口にされた途端、カッと頬が火照った。
急いで手の甲で自分の唇を、何度も何度も拭った。
田丸さんの唇の感覚が痛みで分からなくなるくらいに。
だけど……桐谷以外の人と、キスした。
なに、コレ。
桐谷の事を責めたかったのに、自分が責められる状況になって、どうするの?