【短編】本日、総支配人に所有されました。
誰とも分かち合えなかった三ヶ月の話を勢いだけで話してしまい、まだまだ話し足りないが隣の支配人顔がクスクスと笑っているので、ハッとして途中で止めた。


「よっぽど楽しかったんだな。良かったな」


"やってしまった"と口を抑える私に優しく頭をポンポンと軽く叩く。


久しぶりに触れられた事に対して、頬に熱を持つ。


「明日はゆっくり休んで、明後日からは仕事に打ち込める様にしなさい」


「はい」


「聞いてるかもしれないが、星野の推薦もあり、本人の意思も尊重して中里は料飲事務所に配属が決まった」


三ヶ月間の間で状況は変化し続けていて、優月ちゃんからの電話報告に寄ると・・・優月ちゃんは正式に飲料事務として勤務する事になったらしく、厨房の方々並びに星野さんに親切にして頂いてるらしい。


レストランホールの方々とも段々と打ち解けてきて、良い関係が気付けそうだと言っていた。


優月ちゃんの配属先が決まり嬉しかったのだけれど、自分の事は何一つ、踏ん切りがつかないままで安心出来ない。


明後日からはまた過酷な環境に戻り、勤務する事は不安要素しかない。


心の支えだった優月ちゃんは料飲事務所にいる為、仕事中は会える機会もなかなか無い。


「俺は仕事に戻るから、またな」


寮付近まで送り届けられたが、別れが名残惜しく、支配人の袖をキュッと掴んでしまった。


恋人未満な関係は会いたいとも寂しいとも言えず、曖昧な素振りしか出来ない。


「疲れてるのに無理強いしたくないから言わなかったけど、明日は俺も公休だ。合鍵持ってるだろ?なるべく早く帰る。部屋で待ってろ」


キュッと袖を掴みながら、会えなかった寂しさから、目には涙がうっすらと浮かぶ。


支配人の優しい一言で、まだ関係は続いていたんだと確信し、涙がシートに滲む。


「また泣く…」と呆れた様に言って、支配人は右手の指で私の涙をなぞる。
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