君の日々に、そっと触れたい。

その時だった。
ぴりり、と何かに頬を叩かれた気がした。

聞こえる、声。

『目え覚まし!あんたがしっかりせんでどないすんの?!泣きたいのはりっちゃんの方や!』

気のせいのはずの感覚と共に、聞こえてきた夕実ちゃんの声。あの日だ。私を叱ってくれた、大切な友達の声だ。


………そうだ。

私しか居ないんだ。

私しか。


ぱあん、と自分の両頬を叩いた。じんじんと痛む感覚が、夢から覚めたように頭を冴えさせる。

床に投げ出された細い手首をとれば、とくとくと確かな脈に揺れていた。


生きてる。生きているんだから。

迷っている暇なんてない。この手のひらの中にある命を、絶対に終わらせたりするもんか。


「李紅、ぜったいに助けるから」

そう強く、返事のない彼に誓う。泣けるほど細い身体に腕を回す。力を振り絞って李紅を背負うとするが、意識のない李紅は背中にしがみついてくれないから、何度もずり落としそうになる。

それでも女子高生がひとりで背負えるほどに軽くなってしまっていたなんて、私は知らなかった。


本当は、もうかなり前から無理をしていたんだと思う。

本当ならもう李紅の身体は、一歩でも病院を離れては生きては行けないところまで来ていた。

それなのにこんな所まで来てしまった。

初めてこの家の鍵を回した時も、買い出しに出る私に手を振ったときも、身体を重ねた時も、君の手は震えていた。
気付いてた、分かってた。怖かったんだよね、ずっと。

だって私も怖かった。怖がることしかできなかった。

今までずっと、李紅の苦しみに気付いていながら、何もしてあげられなかった。

助けて、と言えない苦しさを、私は誰よりも知っていたはずなのに。


だけど今は違う。


今は李紅を助けられるのは私だけなんだ。やっと、李紅の力になれる。




両膝を叩いて叱咤すると、私は一歩ずつ、確かな足取りで歩き出した。背中に背負った重みに、背中を押されているような気がした。





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