君の日々に、そっと触れたい。
李紅をベッドに寝かせると、李紅の母さんは手際よく汗の始末をして頭の下に氷枕を敷き、体温計を確認すると僅かに顔を顰めた。
「きっと、薬が飲めなかったのね。辛かったわね……」
そう言って小さな子供にそうするように李紅の髪を撫でた李紅の母さんは、何もかも察したように悲しそうに笑っていた。
「こうゆうこと…………よくあるんすか?」
思わずそう尋ねる。
「そうね…。でも薬を飲めないなんて初めてだったわ。でも、これからはこんなことが増えていくのかもしれない………」
「そ、そんなに悪いんすか?病気……」
「……………聞いてないのね」
何を、と問う前に、李紅の母さんは俺に背を向けたまま、口を開いた。
「この子はね、もう長くはないの」
───…………………は?
言葉の意味が上手く飲み込めず、さっと全身が冷たくなるような感覚に襲われた。
「え………だって俺たち……そんな話何も……」
「…きっと気を遣われたくなかったのね。”普通”に憧れて学校に行ったんだもの」
李紅の母さんはそう淡々と言う。
「”普通”に…憧れて………?」
「………あの子…李紅はね。本当に小さな頃から病気と闘ってきたの。まだまだ遊びたい盛りなのに、病室に閉じ込められて辛い治療に耐えて………」
その声が僅かに震えている。
「あの子は弱音を吐いたことはほとんど無かったわ。それに一度だって文句を言わなかった。……賢い子だもの、幼くても自分の置かれてる状況をちゃんと理解してたのね」
李紅とは全然長い付き合いではないし、まともに話したのも昨日と今日くらいだが、何となく、想像がついた。
辛い気持ちを抑えて、頑なにに笑うあの姿が。
「そんな李紅の唯一のワガママが、学校に行きたい、だったの」
学校に、行きたい。
今までの生活で、そんな風に思ったことはあるだろうか。俺にとっては学校に行くなんて当たり前で、退屈で、面倒臭いとさえ思うものなのに。
そんな当たり前に真っ直ぐな憧れを抱く李紅を思うと、なんだかよく分からないが胸が締め付けられそうだ。
「こんなことを言うのは……酷なことかもしれないけれど」
そこで初めて李紅の母さんは、真っ直ぐに俺に向き直った。
「最期まで、李紅と仲良くしてあげて…」
そう言って泣きそうに笑った李紅の母さんは、やっぱり李紅にそっくりで。なんだかこっちまで泣き出しそうになる。
それを誤魔化すように、強く、頷いた。