君の日々に、そっと触れたい。

「お前はさ、入退院ばっかだった自分の境遇をコンプレックスに思ってんのかもしれねーけど、その苦い経験だって今のお前を創り上げてるルーツだろ?」


「今の俺を……創り上げてる…?」


「そう。だからお前は、人とは違う経験をした分、大事にできたこともあるし、手に入れたものもあるはずだろ」


大事にできたもの…手に入れたもの…………。


「だからその子のことだって、お前だけが持つ力で、お前なりにしてやれることがたくさんある、って俺は思うぜ」



───ずっと、思ってた。

桜に「生きていてよかった」と言わせると、あのノートに誓った日から、ずっと考えてた。


俺にそんな力なんてあるのだろうか、と。

死ぬ前に誰かの記憶に焼き付いていたいだけの俺の自己満足に、桜を付き合わせてしまったんじゃないかって。

だから桜の想いに気付いた時、酷い罪悪感に見舞われたんだ。

どうやったって先に死んでしまう俺には、桜を幸せには出来ないから。


だけど、本当にそれだけか?


桜が俺を好きだと気づいて、もっと真っ先に思ったことがあるじゃないか。



「賢太郎………俺、嬉しかったんだ」



そうだ、何よりも先に、すごく嬉しかったんだよ。

俺じゃダメとか、傷つけたくないとか、そんなことよりもずっと先に、きっとすごく嬉しかった。


「気持ちに応えられないのも分かってて
、でもそうゆうの全部棚に上げて、彼女の想いがただひたすらに嬉しかった」

「…………ああ」

賢太郎は軽く相槌だけを返しながら、優しい笑みを浮かべて聞いてくれている。

その空気感がすごくありがたくて、俺は、俺自身も気づけなかった本音をぽろぽろと零してしまう。


「俺は桜の気持ちには応えられないけど……伝えてもいいのかな……?」


もしかしたら、余計に傷つけてしまうかもしれない。それでも、



「凄く嬉しかったんだってことは……伝えてもいいかな……?」



ここにある感情を、無かったことになんてしたくないから。

だって桜は、伝えようとしてくれた。

それを遮ったままにするなんて、卑怯だ。



「ありがとう………賢太郎。俺なんか分かった気がするよ」


そうだ、俺にはまだ出来ることがある。


まだ、しなくちゃいけないことが残ってる。







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