君の日々に、そっと触れたい。
桜との約束の日。
なんだか落ち着かなくて、約束の6時より15分も早く待ち合わせ場所に行った。
桜はもう来ていた。
俺の姿に気付いて、こっちを振り返って笑う、浴衣姿の桜。
目を奪われた。
「浴衣……着てくれないと思った」
「うん、買えないし着れないと思ったんだけど、夕実ちゃんが貸してくれた」
「そっか。綺麗だね」
素直にそう伝えれば、桜は照れくさそうに目を逸らして、はぐらかすように横髪を耳にかけた。
「いこっか」
桜は俺の手を引いた。
見たことないような食べ物の屋台。夜なのに明るい道。浮き足立つ人混み。お囃子の音。
馴れないことばかりで戸惑いながらも、胸を踊らせた。
実は夏祭りなんて初めてなんだ、と言って見たら、桜は私も男の子と来るのは初めてだよ、と笑った。
それが嬉しくて、繋いだ手を暑苦しいくらいに強く握った。
病気のせいで食中毒になり易い俺は、下手に肉や外気に晒された食べ物は食べれない。桜もそれ付き合ってくれて、俺たちはひとつずつ袋に包装されていたりんご飴だけを口にした。
初めて食べるりんご飴は、甘すぎて噎せたけど、酷く久しぶりに食べ物を美味しく感じた。……ほんのちょっとだけ、泣きそうになったのは秘密だ。
「ちょっとそこのお似合いさん、どう?見ていかない?」
不意に声をかけられて振り返ると、おもちゃのアクセサリーを売ってる屋台のおっちゃんが、ニヤニヤしながら手招きしていた。
「どうよ、彼女さんに指輪でも買ってやんな!」
「ええーだってそれおもちゃですよね」
それに彼女じゃないです、としっかり否定しておく。
「まあまあそう言いなさんな、これなんかどうだい?かわいいだろ?」
そう言っておっちゃんが見せてきたのは、シンプルなシルバーの指は、だけどよく見ると内側に、桜の花びらの模様が掘られている。
その控えめな花びらがまるで桜みたいで、思わずくすりと笑みが零れた。
「おっちゃん、これ買うよ」
「よしきた!」
「ええっ、李紅買うの?!」
俺の見事な手のひら返しに驚く桜に、指輪の内側の桜の花びらを見せた。
「あ………」
「桜柄。俺が欲しくなっちゃったんだ。よかったら、桜のもお揃いで買っていい?」
「あ……ありがと」
照れて顔を逸らす桜に、愛しい気持ちが募る。
お揃いで買った指輪を俺が右手の薬指にはめると、桜は少しだけ残念そうな顔をしながらも同じように右手の薬指にはめた。
左手の薬指にはめなかったのは、一種のケジメのようなものだ。
「移動しよ、花火が始まる」
浮かない顔を切り替えて、桜はまた俺の手を引いた。