遠距離恋愛はじめます

2

待合室には家族と思われるキャスケットを深めにかぶった男性と赤ちゃんを連れた女性がいるだけだった。
寝てる赤ちゃんを起こさないようなるべく静かに時刻表の前まで移動する。

あ、思ったより早く折り返しの電車来る。
これなら終電よりも早く帰れるかも。

スマホからアプリを開くと、茉子は手に汗握りながら母親にメール送った。

【大っ変申し訳ありません。たぶん1本遅れます…】

すると、すぐに既読がつき手の中で着信を知らせる。
相手はもちろん母親だ。

「も、もしもし?」

出来るだけ声のボリュームを下げて出るがスマホからは不機嫌オーラが漂っている。

『なによ、多分って。アンタどこにいんの?』

「あ〜いやね、それが…ですね…」

『はっきり言ってくれる?』

「ごめんなさい。電車を乗り間違えました。これから一旦戻るので1本後に間に合うかもしれないし終電になるかもです…!」

『はぁー!?このバカ娘!!』

「はい、ごもっとで」

『お母さん、明日仕事なんですけど!あんたタクシーで帰ってきな』

「あのぉー給料日前なんですけど…」

『拒否権はない』

「で、ですよねー」

『一応、乗る時にメールして。お父さんお酒飲んでなかったら差し向けるから』

ブツっと切れたスマホに思わず溜息がもれそうになった時、待合室に赤ちゃんの鳴き声が響き渡った。
電話が煩かったのだろうかと鳴き声の方を振り返ってみる。

「オムツ?」

「ううん。ミルクみたい」

「めぐ、もう帰りなよ」

「で、でも…」

「お腹空かせたままじゃ可哀想でしょ。それにちゃんと布団で寝せて。春っていってもまだ寒いんだから」

「分かった…ねぇ、次はいつ帰ってくる?」

「さぁ?まだ未定かな」

「今の仕事落ち着いたら、そっちのお家行きたいの。いいでしょ?」

「うららにはまだ遠出無理だし、うちは赤ん坊に優しくないよ」

「でも、私は…!」

自分の電話が原因で泣いたのではなくてホッとしつつも茉子はこの空気に逃げたくなっていた。

ちょ、ええー?なんの修羅場ですかー!?
赤ちゃんも泣いてるけどお母さんも泣きそうなんですけど…ってか、あの二人夫婦じゃないの?

あまりチラチラ見るのも悪い気がするし、向こうもこちらを気にしている雰囲気を感じる。
時刻表と時計を確認すれば電車が来るまであと20分。
外で待つには少し寒いが、この空気よりはマシだと茉子は待合室からホームへと移動した。
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