副社長の一目惚れフィアンセ
大きな息が漏れて、身体の強張りが抜けていく。

心を支配する闇は大きくなるばかりだ。

こんな思いをしてまで、私はあの人と関わり続けなきゃいけないんだろうか。

これから何十年、これが続いていくんだろうか。

紗耶の言う通り、本当に孫が生まれた時、きっとお母さんはまた詩織の話をするんだ。


『あなたのママはダメなママなのよ。ママのお姉ちゃんは優秀だったのに』


ナオはしばらく握っていた手を離し、今度は私の背を包み込む。

「おかあさんと俺を会わせたくないのは理由があるんだと思っていたけど…明里はずっとおかあさんに、あんなふうに言われてきたのか…?」

何か言葉にしたら涙が出てしまうそうで、ぐっと歯を食いしばった。

「自信をなくすのも当然だ。悪かった。
明里が抱えているものの深さをちゃんと理解していなかった」

くしゃくしゃっと頭をなでたナオは、かがんで私に目線を合わせた。

「…俺がいる。ゆっくりでも、明里が受けてきた傷を癒せるように、明里をずっと愛していくと誓う。
俺にとって、明里は誰よりも大切な存在だ。つらいことは、我慢しないで言ってほしい」

心にたまっていた涙はもう限界を越えていて、ボロボロと零れだす。

それを拭ってナオはもう一度、私を強く強く抱きしめた。



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