副社長の一目惚れフィアンセ
蝉が鳴いている。
地上での短い命を知ってか知らずか、自分の存在を誇示するように。

その声がまた暑さを倍増させる。


この前の花はなくなっていた。

枯れてしまえばみすぼらしくなるから、お父さんが片付けてくれたんだろう。

お父さんは近くに住んでいるから、月命日には必ずお墓参りに来るんだと、この前会ったときに言っていた。

新しい花を花瓶に差し、線香をあげて目を閉じ、手を合わせる。

お母さんはいつも、楽しげに微笑みながら手を合わせている。

嬉しい報告がたくさんあるんだろうか。


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