副社長の一目惚れフィアンセ
ナオが仕事に復帰した週、紗耶と瀬名とコーヒーショップで待ち合わせをして、これまでのことを全部説明した。

「そっか…万事解決だね。よかった」

ホットコーヒーを手に、紗耶は目を伏せる。

「2人のおかげだよ。ありがとう」

「俺らは結局何にもできてないよ。な、紗耶」

瀬名が同意を求めると、紗耶も、うんと小さく笑った。

「頑張って本音を言えたのは明里の勇気だよ」

「…ありがとう」

カタンとコーヒーを置いた紗耶は心配そうに問いかける。

「…じゃあそのあとお母さんとは、連絡とってないんだよね?」

紗耶はひとりぼっちになってしまったお母さんの精神状態を心配してくれているんだろう。

私もそれが一番心配だった。

だけど、持つべきものは血縁だ。

「事情を話したら、叔父さん…お母さんの弟が、アパートに見に行ってくれて、ずっと泣いてたって。病院に行こうって言ったら素直に頷いたって言ってた」

「そっか…」

ホッとしたように微笑む2人。

「いつかまた、ちゃんと親子になれたらいいね」

「…うん」

もう会わないとお母さんには言ったけど、心配なものはやっぱり心配だ。

私にとってはたった一人のお母さん。

いつか…『明里』って呼んで笑ってほしい。



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