副社長の一目惚れフィアンセ
「…でもっ!!」

瀬名の大声に肩がビクッと揺れ、近くを歩いていた店員さんも驚いて足を止めた。

「俺はお前のこと好きなんだからな。
隙あらば奪い取るぞ。相手が社長だろうが首相だろうが関係ないからな」

「ぷっ」

思わず吹き出して肩を震わせながら笑う私を、心外そうに口を尖らせて見ている瀬名。

大声が周りに響いていて注目を浴びていることに、きっと彼は気づいていない。

こういう純粋さが瀬名のいいところだ。


瀬名はずっと私のことを好きだと言い続けてくれている。

だけど、それは恋とは少し違うことを、私も紗耶も、瀬名自身も知っている。

瀬名は、母親に否定されてきた私を肯定するために、『俺は明里が好きだよ。大丈夫だよ』と伝えてくれようとしているのだ。

だから、私には内緒で時々彼女もいるらしい。その辺りの情報は全部紗耶から筒抜けだ。

内緒にする必要なんかどこにもないのに。

瀬名が私を大切に思ってくれているように、私も瀬名に幸せになってほしいと思っているんだから。

「今日は紗耶、来られなくて残念だったね」

紗耶は看護師をしている。

時間が不規則な上、今日は急に体調を崩した先輩とシフトを代わったらしい。

「いいよ、あいつの顔なんて見飽きてるし。ていうか似たような顔だし」

「あははっ」

うんざりしたような瀬名の表情に笑ってしまった。

確かに、二卵性とは言え2人の雰囲気はそっくりだし、性格もまたそっくりだ。

「…でも、今度はお祝いで3人で飲みに行こうな」

「うんっ」



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