冷酷な騎士団長が手放してくれません
ソフィアはゆっくりと起き上がると、ベッドに腰かけた。傷を負った手の甲には、白い包帯が頑丈に巻かれていた。痛みは、もう引いている。


包帯を巻いた手を、ソフィアはそっと少年の方へと差し出す。ブルーの瞳が、ソフィアを見据えた。


「あなた、名前は……?」


「リアムです」


喋ったわ、と脇で驚いたようにアーニャが呟く。


「私は、ソフィア」


「はい、ソフィア様」


少年が、頭を垂れた。他人にひれ伏す姿すらサマになっているのは、この少年が持って生まれた美しさが所以だろうか。


ソフィアは、獅子王のことを思い出す。現ロイセン王の祖父、旧ロイセン王は、剛腕で見目麗しかったことから獅子王と呼ばれ、数々の武勇伝が今なお語り伝えられている。その獅子王の若き頃の姿絵に、少年の面影がどことなく重なった。







「リアムは、何歳なの?」


「今年で10歳になります」


「お父さんとお母さんは?」


リアムは少し間を置いて、「死にました」と静かに答えた。


「まあ、かわいそうに」


アーニャが、気の毒そうな声を上げた。


すると、おもむろにリアムが立ち上がった。ソフィアの真正面に移動すると、リアムは再び片膝をつき、自分より三つも年下のソフィアをうやうやしく見上げる。


「ソフィア様、お願いがあります。あなたは僕の命の恩人です。僕には、もう帰る家がございません。どうかここに置いて、ソフィア様をお守りさせてください」


深いブルーの瞳には、一寸の濁りもなかった。


ソフィアに、迷いはなかった。少年のひたむきな瞳が、亡き愛犬に重なって見えたからだけではない。


彼に、不思議と運命のようなものを感じたからだ。


それは、言葉で表現するのは難しい感覚だった。例えば、草と雨水、花と蜜蜂のような、切っても切れぬ相互関係に似ている。


「わかったわ。そうする。リアムはずっと私の側にいて、私を守って」


そこでリアムは、ようやく表情を微かに綻ばせたのだった。
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