冷酷な騎士団長が手放してくれません
それは、リンデル嬢だった。


いつも精一杯着飾っている彼女にしては珍しい、シックなブラウンのドレスを着ている。髪もシンプルなまとめ髪で、シルバーの髪飾りを申し訳程度に付けているだけだった。


リンデル嬢はソフィアと目を合わすと、きつく唇を噛んだ。凄むというより、怯えたような瞳だった。化粧っ気のない顔には、普段の覇気がない。







「ソフィア。君を呼んだのは、彼女の処罰を決めてもらうためだ」


皮張りの両肘椅子に腰かけたニールが、落ち着いた声で話しかけてくる。


「先日の夜会で、彼女は君のドレスに細工をした。君に、恥をかかせるためだ。結果、君は心に癒えない傷を作ってしまった。数日掛けて調査をしたところ、彼女とグルだった針師が全てを告白した」


固く握りしめられたリンデル嬢の拳が、微かに震えていた。


「俺は、大事な婚約者を傷つけた彼女が許せない。クラスタ家とは切っても切れぬ縁だが、今回の件は人として許されないことだ。彼女を永久に城に出入り禁止してもいいし、場合によっては彼女の父親の解雇も考えている。君が、望むならな」


普段のニールとは違う、無機質な口調だった。彼がリンデル嬢に対して、本気で怒っているのがうかがえる。


ニールはこれまであの事件のことについてほとんど言及してこなかったが、こうして裏で調査を進めていたらしい。おそらく、確固たる証拠を掴まなければ、幾らでも言い逃れ出来るからだろう。


全ては、ソフィアのためだ。彼の自分への想いの深さを、改めて思い知る。






ソフィアは息を呑んだ。そして、微動だにしないリンデル嬢に視線を送る。俯き、じっと事の成り行きを見守っている彼女は、すでに覚悟を決めているように見えた。


ソフィアにしても、リンデル嬢は憎かった。たくさんいやみを言われたし、あの夜会でのズタズタな気持ちは今でも震えがくるほどに覚えている。


彼女に二度と会わなくて済むのなら、どれほど気分が晴れるだろう。


(でも……)


ソフィアには、今一つ腑に落ちないことがあった。
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