冷酷な騎士団長が手放してくれません
「ソフィアに会いに来られたのですか? ソフィアでしたら、今は庭にいます」


「いや、別に会いに来たというわけではありません。この先の商会所に用があり、このあたりの物見遊山ついでに寄っただけでして」


裏表のなさそうなライアンは何かを目論んでいる様子もなく、あの店の料理が美味しかっただとか、あの建物が素晴らしかっただとか、続けざまに世間話を並べ始めた。


そして、召使いが持って来た紅茶とマフィンに口をつけながら、ものの十分が過ぎる頃にはすっかりくつろいでいた。


「それにしても、婚礼まであと一ヶ月を切りましたね」


ライアンの視線が、小窓の外に泳ぐ。


秋桜の花束を手にしたソフィアは芝生の上に座り、どこか寂しげな目で中庭の向こうを眺めていた。


「どうですか? あのじゃじゃ馬も、この城に馴染んできましたか?」


「ええ、とても上手にやってくれていますよ。ただ……」


「ただ?」






ライアンの問い返しに、ニールは一瞬言葉を詰まらせた。


もともと自らの本音をさらけ出すような性分ではないが、ライアンの無防備な空気に流されてしまったようだ。


ニールはテーブルに頬杖をつくと、窓の外のソフィアに目線を送る。


「なかなか、俺に心を開いてくれない」


ははん、とライアンが知ったかぶった笑みを浮かべる。


「それは、仕方のないことです。昔からソフィアは、本音を呑み込むところがある。彼女が全てをさらけ出せるのは、この世でただ一人だけです」

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