冷酷な騎士団長が手放してくれません
舞台では、リアムと鉄仮面の男が激しい剣の打ち合いをしていた。


奇妙なほどに、腕の立つ男だった。だが、リアムのほうがやや優勢だ。


怒りに漲っているリアムは、これまで以上に俊敏で獰猛だった。気圧された鉄仮面の男はやがて身の危険を察知したのか、その場を離れ人込みの中に紛れ込んで見えなくなってしまった。





「ソフィア、怪我はないか?」


地下道に逃げ込んだニールは、ソフィアの顔を覗き込む。


「いいえ……。ご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした」


睫毛を伏せ気丈に言い張るが、その体が小刻みに震えているのをニールは見逃さなかった。


(それほどまでに、あの男を救いたかったのか)


いくら剣術をかじっていようとも、練習と実践とでは天と地ほどの差がある。ましてや、ドレスに身を包んだ辺境伯令嬢が、血気盛んな男たちが死闘を繰り広げている舞台に飛び込むなど、相当な覚悟がいることだ。


それならば、どうしてリアムを護衛から外したいなどと言ったのか。


その言葉の真意を、勘の良いニールはつぶさに汲み取ってしまう。


あの焼けつくような痛みが、また胸の内に広がっていった。


(それでも、俺は彼女を手放したくはない)


愛情なのか執着なのか、もはや分からなくなっていた。










「歩けるか? 早く、城に戻るぞ」


「はい」


自分の立場を思い出し、どうにか平常を保ちつつ、ニールはソフィアを支えながら歩き出す。


こんな状況下なのに、私情で揺らぐ自らに愚かさを覚える。


固く口もとを引き結ぶと、地上で戦う騎士たちと国民たちに思いを馳せ、ニールは真っすぐに前を見据えた。


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