冷酷な騎士団長が手放してくれません
渦巻く陰謀

カダール城内にハイデル公国側の密偵がいるという情報をニールが入手したのは、親善試合の事件の直後だった。そのため、ニールは戦争が始まり不穏に満ちたロイセン王国の王都リエーヌまで赴き、躍起になって情報を探った。


結果得られたのは、ニールの従者であるアダムこそが、ハイデル公国側の組織の重要人物だったという信じられない事実だった。


怒りに打ち震えたニールは大急ぎでカダール城に戻ったが、そこで更に衝撃的な出来事に出くわす。


ソフィアが、アダムに殺されそうになったというのだ。命は無事だったものの、ソフィアはすっかり衰弱しているとのことだった。


馬車に乗ったまま崖に落ちそうになったソフィアを救ったのは、リアムだった。リアムはソフィアを城に連れ帰ったあとすぐにアダムを追い、隣町に潜伏しているところを捕まえ城に連行していた。







部屋で眠るソフィアの顔を見たあと、ニールはアダムの投獄されている地下牢に向かった。


冷たい岩壁で四方を囲まれた薄暗い空間に、つい先日までニールの片腕だった男が、両手足に手錠をかけられ座っていた。


漆黒の瞳に怒りを漲らせながらニールが鉄格子の前で立ち止まっても、アダムは表情一つ変えなかった。


あぐらを組みじっと前を見据え、毅然とした表情をしている。


「まさか、お前がハイデル公国側の人間だったとはな。親善試合でのテロを計画したのも、お前か?」


「左様でございます」


にべもなく、アダムは答えた。


ニールは、唇を噛む。アダムがカダール城に来て七年、ニールの片腕と呼ばれる存在になって二年にもなる。そんなに長い間不穏な陰に気づかなかった自分が、心底ふがいない。


「お前のことは信頼していたのに……」


悔しさと嘆きで、声がかすれた。


「ずっと裏切られていたなど、許せない」


ソフィアを襲ったのも、ハイデル公国の策略だろう。ロイセン王国の辺境伯令嬢であるソフィアとニールが結婚すれば、両国の絆は密になり、ハイデル公国は不利益を被る。



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