冷酷な騎士団長が手放してくれません
ニールは地下牢を離れ、回廊を歩む。


城の中庭には、冬の訪れを予感させる風が吹いていた。以前にソフィアが摘んでいた秋桜の花が、儚げに揺れている。


――人間は皆、心に弱さを抱えているものだ。大切なのは、正面からそれにぶつかり、乗り越えることなのだよ。


アレクサンドル・ベルの、悟ったような瞳を思い出す。






全てを知った今、心の奥では敗北を認めている。壮大な愛の絆には、第三者である自分が入り込む余地などない。けれども、ソフィアへの想いが途切れたわけではなかった。


ニールの口もとから、フッ笑みが漏れる。


「俺も、とことんついてないな」


自嘲的な呟きは、男としての本音だった。


だが、彼はただの男ではない。いずれは多くの民を抱える、この国の君主となるのだ。そして、強大なロイセン王国への永遠の忠誠を誓った身でもある。







ニールは大きなため息を吐くと、口もとを引き結んだ。


中庭から目を逸らし真っ直ぐに回廊を見据える漆黒の瞳に、もう迷いはなかった。



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