冷酷な騎士団長が手放してくれません
「まさか。彼は、私の下僕にございます」


「下僕? また、随分な言い方だな。召使い以下ってことか?」


「そういう価値基準にはございません。確かなのは、私の忠実な下僕ということだけでございます」


ニールとソフィアは、会話を交わしながらも優雅に踊り続ける。ニールの右手はソフィアの腰に、左手は右手に触れていた。


公の場に出る時、ソフィアはいつも右手に白いシルクの手袋をしている。十年前に出来た傷跡を、隠すためだ。


社交界にデビューする際、母のマリアに言われてし始めたものだった。体裁を気にするマリアが、娘の白い手に遺った薄茶色の傷痕の存在を、ひどく嘆いたからだ。


だから、マリアは娘の体に傷を遺すきっかけを作ったリアムのことも、快くは思っていない。


だが、ソフィアにとってはその傷痕は誇りだった。リアムは、ソフィアにとってなくてはならない存在だ。


兄弟ではない、友人でもない、召使でもない、全てを委ねることが出来る唯一無二の関係。そしてその傷跡は、大事な繋がりの証だ。







「面白いお嬢さんだな。『獅子物語』に剣術、次は下僕か。貴族の令嬢との会話とは思えない」


ククッ、とニールが笑う。


「貴女といると、飽きなさそうだ」


ヴァイオリンの音が、高らかに鳴り響く。二人のステップの、テンポも上がる。リズムに合わせて回れば、ニールの肩ごしにホールにいる人々の様子が一望出来た。


多くの婦人たちが、耳打ちし合いながらこちらに視線を向けている。眉間に皺を寄せ、悪魔さながらの形相でこちらを見ているのは、ニール王子と踊りたがっていたというリンデル嬢だ。


帽子もドレスも常に流行の最先端を行く、社交界のファッションリーダー。勝気で身勝手な性格は時に令嬢たちから反感を食らうが、名門クラスタ家の令嬢であるため、歯向かえる者はいない。
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