冷酷な騎士団長が手放してくれません
その日から、ソフィアのカダール城での毎日が始まった。


ソフィアに与えられたのは、ニールの母であるマルガリータ公爵夫人の隣室だった。公爵夫人見習いとして、一日の半分を夫人と一緒に過ごさなければいけない。


マルガリータ夫人は年齢よりも若く見える色白の美人で、緩くウェーブしたプラチナブロンドの髪がお似合いだった。いつもニコニコとして人当たりが良く、人を疑うことを知らない世間知らずな一面もある。


一方で、使用人をはじめ誰にでも分け隔てなく接するので、皆に愛されている。もちろんソフィアにも優しく、母親というより姉のように親しみを込めて関わってくれるのだった。





ニールの父親であるカダール公爵は、マルガリータ夫人とは真逆だった。厳格で隙のない人物で、カダール公爵が現れると場に緊張が走る。だが頭脳明晰で政務の実力もあり、皆に信頼されていた。


ロイセン王国やハイネル公国のように争いを繰り返すことなく、カダール公国が平和を保っているのは、カダール公爵の腕力によるものも大きいだろう。





ソフィアの一日は、早朝から始まる。


朝食を食べ、公爵一家とともに城の三階にある礼拝堂でお祈りを済ませると、まずは勉強が待っていた。


カダール公国の歴史や、式典でのマナーなど、公爵夫人として知っておかねばならないことを事細かく教わる。


それが済むと、マルガリータ公爵夫人とのティータイムだった。


ティータイムは、決まってマルガリータ公爵夫人お気に入りのティールームで行われる。


一階の中庭に面したルーフテラスで花を愛でながら、夫人の朗らかなお喋りに相槌を打つのがソフィアの仕事だった。






問題は、昼食の終わった午後からだ。


マルガリータ公爵夫人は戯曲を見に行ったり、ソフィアを連れて買い物に行ったりすることもあるのだが、外出の予定がない日は決まってお気に入りのティールームでサロンを開催した。


本来は詩の朗読を目的としたサロンなのだが、例によって暇を持て余した貴婦人たちのお喋りタイムになるのが常だった。


そのサロンに、晩餐会でソフィアのドレスを踏んだクラスタ家のリンデル嬢が、毎回のように参加していた。
< 75 / 191 >

この作品をシェア

pagetop