冷酷な騎士団長が手放してくれません
「俺は、色々と所用で忙しい。今日までのように、城を開けることも度々あるだろう。君の傍に寄り添いたくても、思うように寄り添えない」


伏せられた睫毛に、整った鼻梁。ポツポツと吐き出された言葉は寂しげな空気を孕み、闇に溶けていく。


「そのネックレスは、俺の身代わりのようなものだ」


「殿下、ありがとうございます……」


胸の谷間で揺れるネックレスに触れながら、ソフィアは震える息を呑んだ。


ニールの気持ちの大きさを今初めて知り、罪悪感からどうにかなりそうだった。


ソフィアがニールの婚約を受け入れたのは、いわばアンザム家のため。余命少ないアンザム卿を安心させるために、自分の心は棚に上げ、ニールに一生寄り添う覚悟をした。


結婚は、自分の気持ちとは別のものだと割り切るつもりだった。


それなのにニールは、心までソフィアに寄り添おうとしてくれている。






(どうしたらいいの……?)


ソフィアは、ニールに恋心は抱いていない。これから、抱けるかどうかもわからない。それに、もともとそんなつもりは微塵もなかった。


胸もとで光るオレンジサファイアを、ずっしりと重く感じる。


「困ったような顔をするな」


クスリと笑みを漏らしたニールが、手を伸ばしソフィアの顎先に触れた。繊細な指の動きで、俯くソフィアの顔を自分の方に向かせる。


「焦らなくていい。徐々に、俺に心を開いてくれたらいいから」


ネックレスのチェーンを伝った指先が、ペンダントトップを持ち上げた。ニールは僅かにかがむと、そのペンダントトップに口づけをする。


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