冷酷な騎士団長が手放してくれません
目線の先に、一枚の封筒が落ちているのに気づいた。


おそらくドアの下から滑り込まされていたものが、先ほどニールが来訪した際、風圧で前に移動したのだろう。


クリーム色の大理石の床と同系色だから、気づかなかった。


ソフィアは手を伸ばし、封筒を眺める。


宛名のない、簡素なものだった。厳重に封がされているのが、猜疑心を煽る。





不審に思いつつも壁際の木製テーブルに近づき、瀟洒な枯葉模様の刻まれた引き出しから金のペーパーナイフを取り出す。


封を切れば、一枚の薄い紙が姿を現した。


そしてソフィアは、その紙に書かれた文面を目にするなり恐ろしさのあまり口元を手で覆った。







『故郷に帰れ、この売女』






その短い一文には、ソフィアに対する怒りと侮蔑と嫌悪が込められていた。


震えた指先から離れた紙が、ひらりと床に舞い落ちる。


「誰が、こんなひどいことを……」


思い当たる節が、ないこともない。リンデル嬢をはじめ、ニールの婚約者である新参者のソフィアには、この城に出入りする者達の中に数多の敵がいるからだ。


ソフィアは床に落ちた紙を見つめたまま、恐怖でしばらく動けないでいた。
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