冷酷な騎士団長が手放してくれません
しばらくの間、ソフィアとリアムは抱き合ったまま芝生の上に寝転んでいた。


そんな二人を、蜜柑色の月が遥か上空からじっと見下ろしている。


リアムと抱き合っていると、ソフィアは体の芯から充実感に満たされた。


リアムが自分にとって唯一無二の存在であることを、改めて感じる。






「ソフィア様、そろそろ戻らないといけません」


だから悪戯に時が過ぎ、リアムが腕を解いて起き上がった時、ソフィアはどうしようもない寂寥に襲われた。


体を起こし、名残を惜しむように彼女に忠実な下僕の顔を見つめる。月灯りのもとでは、リアムの美術品のように洗練された顔は、より美しさが増して見えた。


色香を孕んだ、微かに開いた唇。


ソフィアは、無意識のうちにかつて触れた彼の唇の感触を思い出す。


柔らかく、濡れていて、熱く、甘い。






――触れたい。


そう思ったのも束の間、まるでソフィアの心を読んだかのように、瞼を伏せたリアムが顔を近づけて来た。


そっと、重なる唇。


味わうように唇を動かしたあとで、すぐに吐息が離れていった。


リアムのキスは、いつもソフィアの心の中の大切な何かを削いでいく。切なさに、胸の奥がぎゅっと疼いた。


「もう、キスは怖くないですか?」


リアムの問いかけに、心ここにあらずのソフィアは頷く。


「ええ。むしろ……」


「むしろ?」


はっと、ソフィアは我に返る。そして、「何でもないわ」と口ごもった。








むしろ、もっとしていたかった。


リアムには何でも話せるはずなのに、どうしてその言葉を飲み込んだのか、ソフィアは自分でも分からなかった。





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