愛される自信をキミにあげる

 雰囲気に流されるがまま来てしまったことを今更後悔する。
 だって、覚悟ってどうすればいいの?
 え、待って。
 こういう時って、普通シャワーとか浴びるんだよね。
 お風呂あがった後、きっちり服は着るものなの?
 それとも、タオルとか巻いて出ればいいの?
 麗がその手の話をするのを、まだ早いからと逃げて聞かなかったあたしが悪い。
 ちゃんと、詳しく聞いておけばよかった。
「なんか、めちゃくちゃ緊張してるね」
 リビングでピクリとも動かなくなったあたしの背中を、ツゥっと三条課長が爪で引っ掻いた。
「ひゃぁっ!」
「あははっ! だから、そのひゃぁって返事なに……もう、ほんと可愛いなぁ」
 くすぐったのはそっちじゃないかと、頬を膨らませる。
「だって……男の人の家にくるのだって、慣れてないんですから。あんまりからかわないでください」
「からかってるはずないでしょ? 嬉しくて堪らないんだって。男の家に来ること慣れてなくてよかったって安心してる」
「こんな、みっともなくてもですか?」
 二十二にもなるのに、男の人に抱きしめられることにも、キスさえも慣れていない。
 もちろん、その先のことなんて妄想ですらできなかった。
「みっともない、なんて思ってない。ただ、可愛いなって……笑留のこと好きだなって思ってる」
 額に一つ、目尻、頬に順番に三条課長の唇が触れる。
 大丈夫だよって、あたしを安心させるみたいに優しいキスだ。
「本当はさ、定石通りにした方が笑留にとってはいいってわかってるんだけど、ごめん……俺にそんな余裕ない」
 指を絡められて、手を引かれるままに三条課長の後ろをついていく。
 廊下にいくつもあるドアの一つは寝室で、部屋はリビングと同じぐらい広く中央にベッドだけが置かれていた。
 心臓が壊れてしまうんじゃないかってぐらい、高く速く音を立てる。
 怖いって気持ちもあるけど、三条課長の髪を撫でる手があまりにも優しくて、彼の頬にも赤みがさしていることが、あたしを少しだけ落ち着かせてくれた。
 まるで壊れ物を扱うかのようにベッドに降ろされて、三条課長の唇があたしの頬から徐々に下へと移っていった。
「ん……っ」
 首筋に息がかかる。
 くすぐったく肌が粟立つような感覚が起こる。
 変な声が漏れそうになって深く息を吐き出すと、三条課長があたしの服に手をかけた。
 すべての衣類を脱がされて、もう恥ずかしいとか声を抑えるとか、そんな余裕はなかった。
 ただ、寄せては返す波のように収まることのない快感が引っ切りなしに続いた。
 三条課長の官能に濡れた瞳や、あたし自身から発せられる甘ったるい声。
「ふ……あっ……も……っ」
「笑留、可愛い」
 時間の感覚はない。
 ただ、可愛い、好きだと繰り返された。
 中心が熱を持って、身体を何度も揺さぶられた。
 労わるように優しい手つきで身体中を弄られる。
 三条課長も汗かくんだ。ああ、同じ人間なんだって、そんなバカみたいなことを思ったりもした。
 荒く吐き出される三条課長の息が、耳から脳内に甘い響きを持って伝わる。
 溶けてなくなりそうなほど心地よい波の中に揺蕩いながら、あたしは長い時間翻弄され続けた。
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