恋よ、来い。 ~傷心デレラの忘れもの~
私は、パントリーの扉を開けて、棚の上段に置いてある食パンを取り出した。
次に冷蔵庫を開け、中に何があるか、素早くチェックする。

「翔ー、目玉焼きと炒り卵と卵焼き、どれがいい?」
「うーんと、めだまやき!」
「りょうかーい」
「おめめ、ひとつだよ。ママ」
「うん。分かってる」

3歳――もうすぐ4歳になる――翔の小さな胃袋には、たまご一つ分くらいの分量が、朝食には丁度良い。
それにトーストもあるし。

私の分のたまごも、油を敷いた小さなフライパンに割り入れて蓋をし、目玉焼きを火にかける。
それから食パンを2枚、トースターにセットした。
高校までここに住んでいた私は、ずっと間取りが変わっていない実家のキッチンも、使い慣れたものだ。

朝食が出来上がる間に、食器棚からお皿やカトラリーを用意したり、翔が飲む牛乳をコップに注ぎ、ポットにお湯を沸かして、私用の紅茶を淹れる準備をした。

< 114 / 483 >

この作品をシェア

pagetop