ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
まったくもってその通りなので、次回からは乗せてあげると言われても、電車通勤しようと反省し、今は津出さんのご機嫌を取ってみる。


「津出さん、その素敵な指輪はもしかして、彼氏からのプレゼントですか?」


彼女の左手の薬指には、可愛らしい小粒のピンクダイヤをあしらった指輪がはめられている。

それを指摘した途端、彼女は赤面して「え、ええ……」と動揺していた。

ニヤリと笑った良樹も「婚約指輪か?」と加勢すれば、無理して澄まし顔を作りつつ、彼女は目を逸らして否定した。


「誕生日プレゼントです。婚約指輪は私の好みに合うものにしたいから一緒に選びに行こうと彼が……。や、やだ、なに言わすんですか! 幸せ真っただ中にいるからって、私はおふたりのように社内でデレデレしたりしませんからね」


今日も安定のツンデレぶりを披露してくれた津出さんに、私の胸がキュンと音を立てた。

慣れてしまえば彼女は、とても可愛らしくて扱いやすい性格の女性だ。

彼氏もきっと、そこに惚れたのだろうと思いつつ、真っ赤な顔の彼女を微笑ましく見守る。

彼女は良樹の背中を押すようにして、「さあ仕事ですよ!」と歩みを促し、ガラス扉の内側へ足を踏み入れた彼は肩越しに振り向くと、私に声をかけた。

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