白雪姫 ~another story~

今日は花の宅配の注文が多く、たくさんの家を渡り歩いていた。

「ここで最後か」

俺はドアの前に立った。

ピンポーン

植木鉢に入った花を抱えながら玄関のチャイムを鳴らした。

「はーい」

ドアが開くと中から制服を着た女の子が出てきた。

「頼まれていたものです」

と俺が花を手渡すと

「綺麗なお花」

そう言って女の子は笑った。

喜んでもらえてよかった。

サインをもらい車に戻ろうとした時だった。

「あ、待ってください!」

と女の子に呼び止められた。

「はい?」

振り返ると、女の子はこちらへ歩いてきた。

どうしたのだろうか

と俺が疑問に思いながら立ち止まっていると

「あの...違ったらすみません」

と女の子は俺の前に立った。

「大輝さん...ですか?」

といきなり彼女の口から俺の名前が出た。

え、もしかしてどこかであったのだろうか。

だけど覚えていない...

あー申し訳ねぇ...

こう言う時はなんて言うべきなんだ...

と俺が頭を抱えていると

「あ、私が小さい時に病院で遊んでくれた方に似てるなって思っただけです。ごめんなさい」

と彼女は申し訳なさそうに言った。

「いや、多分それは俺たちだと思う」

「本当ですか!?」

「ああ」

「私、途中で退院してしまってお礼も言えなかったし...」

「お礼なんて。大したことしてねぇし」

なんだか照れ臭い。

「それに白雪姫にもまた会いたいし」

と女の子は嬉しそうに言った。

っ...

結姫が死んだことを知らないのか...

本当のことを話すべきなのかわからない。

けれど

「あいつは10年前に死んだんだ」

と俺は本当のことを話した。

すると女の子の顔から笑顔が消えた。

「そ、そうだったんですか...ごめんなさい!」

と泣きそうな顔で言った。

なんて言えばいいのかわからない。

結姫が死んだしまったことは悲しいことだ。

思い出すのは辛い。

でも結姫のことを覚えてくれている人がいたことが嬉しかった。

あの時一緒に遊んだ子どもが大きくなって元気に過ごしている。

だから

「謝らないでくれ。あいつのことを覚えていてくれる人がいたってことが嬉しいんだ」

と俺は笑って言った。

すると女の子は

「白雪姫のこともあなたたちのことも忘れたことはありません。あの時は本当にありがとうございました!」

と恥ずかしそうにでも安心したような顔で言った。

「こちらこそありがとな、じゃあ」

と俺が車に乗ろうとすると

「また今度はお店にお花を買いに行きますね!」

と女の子は笑った。

「ああ、待ってる」

そう言って俺は車を出した。

この話をみさとにしてやろう

あ...いつのまにか敬語じゃなくなってた...

お客さんと話す時は必ず敬語で話さないと、みさとに怒られるんだ...

このことがみさとにバレたら...

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