天使は金の瞳で毒を盛る
終章:光の庭
彼は約束の時間ぴったりに来た。背広を着ている。仕事をしていたのかもしれない。

そんなこの際どうでもいいことが頭の中を走っていく。ああ、一体何をどうやって話せばいいのだろう。

私、なんで呼び出しちゃったのだろう。鬼塚さんの言葉に当てられたのかなあ。

でも、今更引き返せない。私は彼を見据えると言った。

「わざわざ休みの日に来てもらって悪かったわ。お父様に言われた件をそろそろはっきりさせておこうと思って」

榛瑠は何も言わない。

「あなたとの婚約の件だけど、受けることにする」

胸が破裂しそうにドキドキする。榛瑠は相変わらず無言だ。

「いろいろ思うところもあるでしょうけど、婚約する以上は誠意を示してもらうわ。醜聞とか困るし、私もそうします。それに、お父様ともお話しされているとは思うのだけれど、私の夫になるということで、将来会社を継ぐ可能性が大きくなると思う。というか、そうなるでしょう。…その辺でいろいろ言いたいことは収めてもらえればと思うわ。悪くない条件のはずなんだけど?」

榛瑠は黙ってこっちを見ていた。何よ、なんか言いなさいよ。

わかってるわよ、格好つけて言ってみたけど会社あげるからほかの女と手を切って私と結婚しなさいってことよ。…だって、しょうがないじゃない。結局ここ以外落とし所なんてないんだもの。

涙出てくる。なんて格好悪いのだろう。でも、いい。それでも、いい。それでも、失くすのは、もう嫌。

榛瑠がゆっくり口を開くのがスローモーションのように見えた。思わず目を瞑る。

「一花、きれいだね」

はい?

目を開け彼を見る。榛瑠はニコニコして立っていた。
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