突然現れた御曹司は婚約者

「牧田くん?」


突然出てきた名前をそのままおうむ返しすると、寧々はジッと私の顔を数秒眺めてから「なんでもない」とだけ言って飲み物の置かれたテーブルの方へとスタスタ歩き出した。


「え?あ、ちょっと待ってよ、寧々。牧田くんがなに?知ってることがあるなら教えて」


実は、蓮のせいで牧田くんの話が中途半端になってしまったことをずっと気にしていた。

でも忙しい牧田くんとはすれ違うばかりで。


「寧々はなにか知っているんでしょ?」


もう一度背中に声をかけると、寧々は立ち止まり、ゆっくり振り返った。

でも寧々の口が開く前に遠くの方から私たちの名が呼ばれてしまい、会話は中断。

タイミング悪く近寄って来た人物を、恨めしく振り返る。


「あ、なんだ。こんばんは」


満面の笑みで走り寄って来たのは喫茶店のオーナーだった。


「こんばんは。いやぁ、ふたりとも普段着だと印象変わるね。いつにも増して綺麗だよ」


制服姿でしか会ったことがないと意外と気付かれない普段着姿の私たち。

それをすぐに気付いて、さらに褒めてくれたのはとても嬉しい。

でも歯の浮くような言葉にこちらが照れてしまう。


「ありがとうございます」


と営業スマイルで答えた寧々はさすが『綺麗』と日頃から言われ慣れているだけのことはある。
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