ホワイトデー・カデンツァ
朝目覚めると、左手の薬指に指輪をはめていた。

寝る前にはなかった。

ということは?

慌てて、隣で眠る漆原建を見る。

才能にもルックスにも恵まれているプロヴァイオリニストという超ハイスペック男子。
そんな彼が、私の隣で無防備な顔をさらして眠る姿を見ることになるとは、1ヶ月前までは予想だにしていなかった。

しかも、何これ。

指輪って。

今日は3月14日だから、バレンタインチョコのお返し?
にしては、桁が違いすぎる。

もしかして安物? いつもの冗談で私をからかうパターン?

左手の甲を顔の前に持ってきて突然現れた指輪をしみじみ眺める。

遮光カーテンから漏れるわずかな朝陽にもまばゆく輝くのは、ダイヤモンドではなかろうか。
しかも周りは、繊細な(おそらく)プラチナ細工。

……とてもとても綺麗。

キラキラ上品に輝く指輪は、彼のヴァイオリンの音色みたいだ。

「おはよう」

横から声がした。

漆原建を見ると、うーん、と伸びをしている。

「あの、これ」

「ああ、エンゲージリング」

耳を疑うとはこのことだ。
固まっている私に、彼は「婚約指輪」と和訳した。

「……えっと、そうではなく、そうなんだけど、」

本気ですか?という言葉はのみこんだ。

「結婚するぞ」

はい⁉︎
天才の我儘はこんなところでも発揮されるわけ⁉︎
まだ付き合って1ヶ月ですけども⁉︎
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