契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
……というわけで。
神宮寺の腕に包まれた心地よさの中で、栞はこの状態をいつまでも享受するにはこれから自分はどのようにすべきかを、前向きに考察してみることにした。
幸い、物事について「考察する」ということに関しては、得意な方だ。
……とりあえず、明日の朝起きたら、気張って朝ごはんをつくるところからやろか?
今まで自分のできる範囲で「京のお晚菜」をつくってきて、なんとか神宮寺の胃袋は掴めてはいるようだが「料理」というのは奥深いものだ。
……たっくんはお子ちゃまが好きな洋食系も、食が進まはるからなぁ。それに、中華系も食べはるのに、あんましつくってなかったなぁ。
まだまだ「改善」の余地はある。
「よしっ、朝起きたら、神戸の北野ホテルも真っ青になるくらいの豪華な朝食をつくるえっ!」
栞は無謀にも生まれた土地の「世界で一番美味しい朝食」を「仮想敵」にして、心の中で握り拳をつくった。
そして自分を抱きしめながら、いつの間にか眠ってしまった神宮寺を見る。
まだ微かに少年の面影が残る寝顔だった。
こうして見てみると、やはり五歳も違う「歳下」なのだな、としみじみ感じた。
「……たっくん……かわいすぎる……」
栞は神宮寺の唇に、ちゅ、とキスをした。
自分からだれかにくちづけをしたのは、これが初めてだ。
神宮寺は栞から、あらゆる「初めて」を奪っていった。