契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

栞は、LINEで姉の稍を開いて【無料通話】をタップした。
数コールのあと、声が聞こえてきた。

『もしもし……栞ちゃん?どないしたん?』

姉の声だ。申し訳なさでいたたまれなくなる。

「あ、おねえちゃん……ごめん。そっちには行かれへんようになってしもうてん」

『ええっ、なんでっ? 会いたかったのにぃ』

……あぁ、おねえちゃん、本当(ほんま)にごめん。

『栞、来られへんようになってんてぇ』

父に「報告」しているのだろう。稍の声が少し遠くなった。

『ええっ⁉︎ ウソやろっ⁉︎ なんでやねんっ⁉︎』

男の人の声が飛び込んできた。

……おとうさん? それにしては……なんか声が若いような?

『栞ちゃん、なんでなん?会うの、楽しみにしてたのにー』

稍の声がまた近くなった。心の底から残念そうな声だ。

『うん、おねえちゃん、ごめんなぁ。
あの……先生が……その……急な仕事で……離してくれへんくって……』

「事情」は話せないから適当な言い訳となり、(やま)しさからどうしてもごにょごにょした口調になってしまう。
しかし、昔からなにかと察しの良い稍は、栞の言わんとするところを理解した。

『わかった、わかった』

しかも、ありがたいことに、栞の「事情」をすんなり受け入れてくれたようだ。


『……あ、智史(さとふみ)……栞と話したい?』

< 110 / 214 >

この作品をシェア

pagetop