契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

『あたしはまだ小学生やったからさぁ、覚えてることは限られてるねんけど……』

……おねえちゃんは知ったはるんや。

『あたしが小学校に上がる年に、神戸(須磨)の家を()うて引っ越ししたんよ。
そしたら、おかあさんの昔の同僚っていう人も偶然、同じ並びの家を買わはったらしくて……』

栞たちの母親は、結婚する前に神戸にある華丸百貨店で勤務していた。

『引っ越して何年かして、栞ちゃんは生まれてんけど、本当(ほんま)のお父さんは……その同僚の人の旦那さんとちゃうんかな、ってあたしは思ってる。
……栞ちゃんはおとうさんには全然似てへんけど、その(ひと)の面影やったら、どことなくあるし』

栞は息を飲んだ。
自分はW不倫の両親の下に生まれた「不義の子」だったのだ。

……えらい、やらかしはった人らの子ぉとして、生まれてきてしもうたなぁ。

『うちらのおかあさんは結婚して専業主婦にならはったけど、同僚の人は結婚してからもキャリアウーマンとして、バリバリ働いたはってなぁ……』

そして、こころなしか、稍の目が縁側の奥の坪庭を抜けて、もっと遠くのなにかを見つめるようになった。

『そこの家には男の子が一人おってんやんかぁ。
……あたしと、同い年の子ぉや』


……それって、もしかして、
あたしの腹違いの「お兄さん」っこと⁉︎

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