契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

「話は少しズレますが……『お兄さん』はあの頃、晩ごはんにってお金を持たされてても、コンビニのおにぎりとかしか食べてへんかったそうですね?それを見かねて、うちの母がほとんど毎日うちに呼んで晩ごはんを食べさせてあげてた、って姉から聞いてるんですが」

登茂子の眉間にぐっとシワが寄る。

「そやかて……仕方(しょう)がないやろ?
あのとき、ようやく役職に就いたところで、仕事を放って帰るわけにはいかへんかったのよ。
百貨店(デパート)は女子従業員の方がずっと多いのに、管理職は男性社員ばかりやったから、少しでも風穴を開けるために、家庭のことは犠牲にするしかなかったのよ……それに、智史はわたしだけの子どもやない。父親である洋史にかって責任はあるわ。激務やったのは、研究職のあの人もよ」

「別にうちの母親の擁護をするわけやなくて、あくまでも客観的な見地からなんですが……」

栞の「目的」はあくまでも、姉のための「援護射撃」だからだ。

「……そんなふうに『お兄さん』のことまで心配して世話していた人が、あたしらを置き去りにして出て行ってしまえるもんかなぁと、どうしても思わずにはいられへんのです」

栞の脳内では神経伝達物質(シナプス)が、絶え間なく流入する新しい「情報(データ)」へ触手を伸ばして、今までの「情報(データ)」につなげていく。

「……もしかして母は、あたしだけやなくて、姉も『お兄さん』も『みんな一緒に連れて行きたい』って言うたんやないんですか?
あたしにはそういう行動に出る方が自然に思えるんですけど。
けれども……あなたも、そして麻生の父も、それを拒んだんやないんですか?」

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