契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
そして、早速、しのぶは婚姻届を用意してきた。
ただ、世間ではGWに入ってしまったため役所も大型連休に突入し、仕方ないのでゼクシィの付録についている用紙になった。それは【婚姻届】と書かれた文字だけでなく、罫線までもがショッキングピンクだった。
「……げっ、いくら『私文書』とはいえ、公の機関で保存されるんだぜ?」
神宮寺は絶句したが、
「あ、かわいい〜♡」
栞は能天気におもしろがっていた。
「限りなく『有印私文書偽造罪』に近い人がなに言ってるんですかっ。
……だけど、この婚姻届、少々引っ張っても破けないし、インターネットでダウンロードしてプリントアウトしたインクジェットと違って、少々水に濡れても滲まなくて大丈夫なんですってよ?」
証人の欄にはすでに【佐久間 千尋】と【佐久間 しのぶ】の署名がしてあった。
「……佐久間先生、なにか言うてはりましたか?」
栞は、自然と伏し目がちになる。
「この仕事を栞ちゃんに紹介したことを、ものすごーく後悔してたわね……証人として署名するのも、ものすごーく渋ったけれど、『署名しないと離婚するわよっ!』って脅して、無理矢理書かせてきたわ」
そう言うしのぶも、夫と同じ気持ちだ。
「ふん……だったら、離婚すりゃいいじゃん」
「せ、先生……っ⁉︎」
また、しのぶが「大噴火」目前だ。
栞はあわてて、神宮寺にボールペンを渡す。
「先生、どうぞ」
この前、池原が「お土産」で置いていった古湖社のノベルティだ。
神宮寺は「作家」だが、現代社会を生きる文筆家のほとんどがPCやスマホで原稿を綴る時代だ。
「愛用の万年筆」など持ち合わせていない。
ノベルティのボールペンを受け取った神宮寺は、婚姻届の【夫になる人】の欄に署名を始めた。
栞は神宮寺の手元を覗き込んだ。