夢の続きを
・・・・・

それから私たちは、徐々に仲良くなっていった。
その子が田辺海翔という名前であることを知り、ひとつ隣の市に住んでいて同い年だということも知った。

海翔は私より数か月早くスケートを始めていて、ほんの少しだけ先輩だった。私とは違い、フィギュアスケート好きの親に勧められて通うことになったのだという。


「母さんが、アメリカの選手のファンでさ」


話を聞くと、どうやら海翔の母親が自身の憧れを息子に託したようなのだ。はあ、とどこか迷惑そうにため息を吐く海翔だったが、私はその話を聞いて目を輝かせた。


「その選手、私も大好き!」


海翔の母親と同じ選手が好きだなんて、ちょっとした偶然だ。嬉しくなってそう告げると、海翔は不機嫌そうに眉を寄せる。


「何だよ。俺の方が、すぐに上手くなってやる」


いつもは、何を考えているのか分からないほど感情を出さずに練習をしている海翔が、不機嫌丸出しでリンクに飛び出していったので、私は慌てて後を追う。


「待ってよ、海翔」


いつの間に、こんなにすいすいと滑れるようになっていたのだろう。海翔のスピードに追い付けない私は、すぐに根を上げた。
ぐったりとリンクの壁にしがみついている私に気付いた海翔は、するりとスケート靴を滑らせ、私の元へとターンしてくる。


「真白は、その選手に会いたい?」


唐突な質問に、荒い呼吸を繰り返していた私は目を白黒させた。
大好きな選手だ。もちろん会いたいに決まっている。


「うん」

「そっか」


海翔は少しの間黙った後、こう言ったのだ。


「ねえ、真白。一緒にオリンピックへ行こう」


オリンピックという言葉に驚いたのと、遠くから大声が聞こえたのはほとんど同時だった。


「そこの二人! 勝手に進まない!」


ハッとして声の主を見ると、少し離れたところからスケート教室の先生が目をつり上げてこっちを見ている。
私たちは完全に練習をサボっている格好となってしまっていた。


「ごめん」


そう言って差し出してくれた手を取ると、海翔は私の手を引いて、元いた場所まで連れていってくれた。
後ろからなので顔は見えなかったけれど、耳が真っ赤になっている。きっと、先生に怒られたことが恥ずかしかったに違いない。
私はくすくす笑いながら海翔の少し後ろを滑った。


ーー握られたその手は、温かかった。


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