獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
ほどなくして、ノックの音と共にカイルが再び姿を現した。


白いシルクのブラウスに、脚の長さを際立てる紺色のズボンに着替えている。


金糸雀色の前髪をかき上げながらアメリを一瞥すると、カイルはすぐに顔を赤らめ視線を逸らした。


そしてドカドカと強引に室内に足を踏み入れると、アメリからはやや距離を置いてベッドに腰かける。


「今日からは、この部屋を使うといい」


吐き出される言葉も、つっけんどんだ。


歓びで、アメリの心臓がドクンと跳ねた。


「それは、また婚約者にしてくださるということですか?」


「……言わなくても、分かるだろう」


アメリが明るい声を出せば、カイルはアメリの方を見ないままに答えた。






「カイル様、ありがとうございます。でも、以前の部屋ではなくて大丈夫なのですか? あちらが、カイル様が婚約者様用に用意した部屋だと司祭様にお伺いしました」


すると、カイルは怪訝そうな表情を浮かべる。


「まさか。あれは、女を追い出す用の部屋だ」


「追い出す用?」


「父親が勝手に用意した婚約者を、俺は迎え入れるつもりなど微塵もなかった。女は手厚くもてなされないと、腹を立てる生き物だ。だからわざと、ああいう穴倉のような部屋を用意した」


カイルの顔に、悪い笑みが浮かんでいる。だがカイルはスッとその笑みを消すと、ぼそりと呟いた。


「……お前には、効かなかったがな」
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