獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
「アメリ様、きりがない。そろそろ……」


そうは言うものの、ヴァンがそっと目尻の涙を拭ったのをアメリは見逃さなかった。この色男も、きっとアメリと同じように感じているのだ。出来ればこの城でこの先も彼らと生活を続けたかった、と。


だが、意を決して馬車に乗り込もうとするアメリを「待ってください……」とか細い声で引き留める者がいる。


それは、今では図書館司書見習いとなったアレクだった。


「アレク」


アメリは柔和な笑みを浮かべると、目線が少年と同じ高さになるよう膝を折る。


アレクは書物の管理をする者らしく、濃緑色の立派な上着を着ていた。小柄なアレクには少々サイズが大きく、袖が余っているところがかわいらしい。






「ふふ。その上着、似合っているわ」


よしよしとアレクの猫ッ毛を撫でれば、少年は顔を赤くした。それから、おずおずと口を開く。


「ずっとあなたにお礼が言いたいと思っておりました。以前に、僕を庇ってくださりありがとうございました」


アレクが騎士見習いだった頃、訓練中にカイルに虐げられているところを見て、アメリが割って入ったことがある。アレクは、そのことを言っているのだ。


「いいのよ、アレク」


「……でも、誤解しないで欲しいのです」


少年の純真な瞳が、アメリを見つめた。


「王太子様は、本当は、噂のような悪いお人ではありません」


アメリは目を見開いた。それから、そっと哀しげに微笑む。


「……知っているわ」


「僕の、初めての友達になってくれたんです……」


少年は、か細い声でしどろもどろに、けれども懸命に口を動かす。


「『あなたと友達になりたい』と言うと、『殺すぞ』って言われて、でもその後で『仕方ないから友達になってやる』と言ってくれました」


その時のやりとりを想像して、アメリは吹き出しそうになった。


その後で無性にカイルに会いたくなって、たまらなく泣き出しそうになるのを必死にこらえる。





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