能ある狼は牙を隠す



試練だ。これは神様が私に与えた試練なんだ。


「最っ低! 本命他にいるってこと!?」


週に一度の委員会。
今週もそれは淡々とやってきて、何事もなく終えたはずだった。

どうやら先生に提出しに行くのはどちらか一人でいいみたいで、それならと私が引き受けた。

職員室を出た後、教室にお弁当箱を忘れてきたと気が付いて、まさに今教室のドアの前にいる。


「本命? いないよそんなの」


そう答えるのは紛れもなく狼谷くんの声だ。
中で女の子と口論になっているようで、非常に入りづらい空気。
いや、入るべきじゃない。確実に入るべきじゃない。


「はあ? 何それ。じゃあ全部遊びだったっていうの?」

「だから、そうだって言ってんじゃん」


その瞬間、乾いた音が聞こえた。
ああ、痛そう――こっちまで顔をしかめてしまう。

足音がして、慌ててドアの前から離れる。


「馬鹿! クズ! 最低!」


女の子はそう吐き捨てると、勢い良くドアを開けて教室を出て行った。
その後ろ姿を見送ってから、そろりと中を覗く。

狼谷くんは机の上に腰かけ、頬を押さえていた。


「……別に、隠れなくてもいいよ」

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