能ある狼は牙を隠す


差し出されたフラペチーノのクリームには、大きなクッキーが刺さっていた。
「HAPPYBIRTHDAY」と書いてあるから、きっと彼女が店員にお願いしたんだろう。


「へへ、びっくりした? 誕生日なんですって言ったらつけてくれたの! 親切だよね!」


へら、と目尻を下げて笑う羊ちゃんに、つられて頬が緩んでしまう。

彼女より何回もここに来ているのに、そんなサービスは初めて知った。


「狼谷くん、お誕生日おめでとう」

「……ありがとう」


じんわりと胸の奥が暖かくて、こんなに血の通った思い出ができた日はいつぶりだろうと苦笑する。

キャラメルフラペチーノは思ったよりも甘くて、正直いつものベリークリームラテの方が好きだった。

それでも、向かいで満足そうに俺を見つめる彼女を視界に入れてしまうと、そんなことはどうでも良くなった。


「こんなにちゃんと誕生日祝われたの、久しぶりだな」

「そ、そうなの……?」


どこかの誰かと適当に時間を潰すのは、楽だけど虚しい。
それを分かっていながら止められないのは、面倒なことに踏み切るのが怖いからだ。


「だってもう高校生だよ。ケーキ食べてはしゃぐ歳でもないじゃん」

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