能ある狼は牙を隠す



夏期講習は英語、数学、国語の三教科だけだ。

それはいいとして、朝から英語だなんて本当に気が滅入ってしまう。
テスト期間で随分苦手意識はなくなったけれど、まだまだ好きにはなれない。

講習用の薄い冊子を閉じて、小さく体を伸ばす。
ようやく一時間目が終わったところだった。

暑さから逃れようと制服の襟元をぱたつかせていた私の視界に、銀色のピアスが映り込む。


「羊ちゃん、おはよう」

「あっ、え!? おはよう……!」


咄嗟に挨拶を返すと、狼谷くんはその綺麗な黒髪を揺らして微笑んだ。

朝からその笑顔は眩しすぎる……。

それにしたって、わざわざ彼が私の席に話しかけに来るのは珍しい。
何か用だろうか、と黙って彼の言葉を待っていると、


「今の英語、分かんないとことかなかった?」


もしかしなくても狼谷くん、私のポンコツっぷりを気にしてるんだ!

もうテストも終わって私の面倒をみることから解放されたというのに、こうして聞きに来てくれるなんて。


「か、狼谷くん……」

「ん?」

「神様ですか……?」

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