能ある狼は牙を隠す


それにしても、ちょっと中心街から離れただけでこんなに穏やかな風景が見れるんだなあ。
緑が多くて、風や虫の鳴き声がよく聞こえて、こういうところはすごく好きだ。

自販機でスポーツドリンクを買ってから、再びホームでのんびりと自然の音に耳をすませる。
そっと目を閉じていると、しばらくして、かたんかたん、と電車が近づく音がした。


「……羊ちゃん?」


我に返ったのは、そんな声が飛んできてから。
目を開いて振り向くと、狼谷くんがなぜかすごく驚いた表情で立ち尽くしていた。


「狼谷くん! ……ええと、おはよう?」


もう昼過ぎだから、絶対におはようではない。でも、こんにちはもちょっと違う気がする。

それよりも、狼谷くんを改めてまじまじと観察してしまった。

普段真っ直ぐ下に伸びている毛先は、今日はふわふわとしている。
黒いスキニーが彼の長い足を綺麗に演出していて、大きめの白シャツもすごくセンスがいい。

なんというか、ほんとに、どうしよう。
ただでさえ容姿がいいのに、制服という制限がなくなってしまうと、本当に狼谷くんはモデルのようにかっこいい。


「おはよ。ごめん、こんな暑い中待たせちゃって……」

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