能ある狼は牙を隠す



そういえば、今日は木曜日だった。
委員会の日に気を張るようになったのは、果たしていつからだったか。

忙しいのは有難い。余計なことを考えずに済むからだ。文化祭が近付くにつれて、色々と慌ただしくなってきた。


「終わったクラスから今日は解散でー」


そう言い渡されて、席を立つ人がちらほら。
私もようやく手元にあった冊子を綴じ終えて、一息ついた。

そっと目の前の様子を窺うと、狼谷くんもちょうど作業を終えたところのようだ。
人が少なくなっていく教室内で居残るのは気まずい。それを免れることができそうで安心した。

どちらともなく椅子を引いて、私たちは帰り支度を始める。

ここのところは美術室へ赴いて、自分の作品を進めたり、犬飼くんのことをみたり、そんな毎日だ。今日もこのまま美術室へ行こうと、教室を出て廊下を歩いていた時だった。


「羊ちゃん」


委員会を終えた時点ですっかり責務を全うした気分になっていた私は、完全に意表を突かれた。
振り返れば、こちらへ向かって歩いてくる狼谷くんと目が合う。


「もう帰る? 帰るなら下まで一緒に行こ」

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