能ある狼は牙を隠す


その呼びかけに、女の子たちの後ろで縮こまっていた田沼さんが、悲鳴のような返事をした。


「はいっ! ごめんなさい……ごめんなさい……」


まさか、と嫌な汗が背中を伝う。


「あなたたちが、田沼さんに指示していたんですか……?」


私がそう問うと、三人いたうちの一人が、「何のこと?」と口を開いた。


「あんた直接頼まれたでしょ、田沼に。私たち何も関係ないけど?」


いや、それにしては登場の仕方が悪役すぎます……。
サスペンスドラマだったら三十分ともいかず終わってしまいそうなクオリティだ。


「サイテーだね田沼、わざわざ仕事押し付けて。そんなに恨みでもあったの?」


けたけたと笑い転げる女の子たちに、呆気にとられた。
すっかり俯いてしまった田沼さんを見据え、私は踏み出す。


「な、何?」


突然近付いてきた私を訝しむ女の子たちの中に割り入って、田沼さんの目の前で立ち止まった。
そして彼女の顔を覗き込み、笑いかける。


「田沼さん、ありがとう」

「…………え?」

「おかげで私、狼谷くんとちょっと仲良くなれた気がする!」

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