能ある狼は牙を隠す

SS 着眼大局 ―Kana Nisimoto―



みんながなるべく疲れないように、尚且つ満遍なく回れるように。
マップと睨めっこをしながら一日中テーマパークを堪能して、津山くんたちと待ち合わせしている広場へ急ぐ。

昼間は友達と、夕方以降は恋人と。先輩たちが代々そうしてきたらしく、暗黙の了解だと思っていた。
でも羊は、きょとんとした顔で「そうなの?」と聞き返してくるから。みんなで慌てて狼谷くんに連絡しなさいと諭した。


「おー、何食ってんの? ポップコーン?」


津山くんは真っ黄色のパーカーを羽織っていて、そのチョイスが何とも彼らしい。目がチカチカするけど。

ちゃっかり食べ切れない分を押し付けようとしたあかりが、「ちぇ、失敗」と文句を垂れる。


「玄くん、可愛いの着てるねえ」


穏やかな声でそう言ったのは羊だった。
反射的にそっちへ顔を向けて、思わず目を見開く。

狼谷くんは柄にもなく青いパーカーを着ていて、それを指摘されたのがむず痒いのか、少し顔を歪めた。

……いや、待って。いま羊、「玄くん」って言わなかった?


「ああ……結構人多いしね。はぐれたら困るから」

「そうだね……私も玄くんのこと離さないように、ちゃんと握っておくね」

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