能ある狼は牙を隠す


駄弁りながら夜風に吹かれていると、朱南が目敏く二人の姿を見つけて駆け寄っていった。
確かに、別れる前まで狼谷くんが着ていたパーカーは、羊が羽織っている。

……何だろう。なんか、変だ。

羊の様子がおかしい。
黙って朱南を見つめて、感情が抜け落ちたような顔をして。


「えっ、羊!? どうした……?」


次の瞬間、羊の目からはぽろぽろと涙が溢れていた。
一瞬自分でも理解できていなかったのか、朱南が声をかけてから我に返ったように目を拭い出す。

そこから堰を切ったように、羊は顔を歪めてえぐえぐと泣き始めた。ただならぬ様子にあかりと二人で顔を合わせて、慌てて駆け寄る。

何事かと狼谷くんの方を見るも、彼の表情もまた憔悴しきっていて。これは一概にどちらが悪い、とも言えなさそうだ。


「……とりあえず中入ろう。ね?」


朱南が珍しく困り果てたように羊を促して、背中をさする。
羊の介抱は二人に任せることにして、私はそっと背後を窺った。


「……玄、何かあった?」


立ち尽くす狼谷くんに、津山くんがストレートに問う。

霧島くんは気まずそうに顔を背けていて、何だか申し訳なくなった。坂井くんは――と視線を左右に振ったところで、


「坂井くん?」

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