能ある狼は牙を隠す

心満意足



時計の秒針が、静かに時を刻む。
どれくらい経っただろうか。香さんは話を終えると、顔を上げて私を見据えた。


「ごめんね。長話になっちゃって」

「いえ……あの、でも良かったんですか? 私がこんな、色々聞いてしまって」


打ち明けづらい内容も含まれていたに違いない。
私の言葉に、彼女は「いいのよ」と頷いた。


「あの子と真剣に関わってくれている羊ちゃんだから、私も真剣に向き合わないといけないと思ったの」


そっと目を伏せた香さんは、遠慮がちに問う。


「私が勝手に話しておいてなんだけど……大丈夫? やめたくなってない?」

「え、と……何を、ですか?」

「玄と付き合っていくこと。多分びっくりさせちゃったわよね。思ってたのと違う、とか思ってない?」


心配そうに、不安そうに私を見つめるその瞳。
それに微笑みを返して、首を振った。


「いいえ。大丈夫です」


びっくり、は確かにそうだ。私の知らない彼は沢山あって、まだ知らない部分もあるはずで。

でも私は、今とても安心している。
彼が今までどんな風に生きてきたのか。どんな経験をしてきたのか。奥行きが増した世界が私の中で彼をしっかりと縁どって、ここにいるよと教えてくれる。


「私は玄くんのことが好きなので、大丈夫です」

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