能ある狼は牙を隠す


言ったそばから恥ずかしくて、顔から火が出るかと思った。
頬が熱くて、辺りが薄暗くて助かったな、と安堵する。


「これからも?」

「う、うん」

「これからも、ずっと?」


念押しをされて、きっとこれも言わないと終わらないんだろうなと悟った。


「これからも、ずっと……狼谷くんのこと、見てるよ」


語尾が震える。

もう何が何だかさっぱりだ。
視界がぼやけて、初めて羞恥で涙が溢れそうになった。


「……ん」


狼谷くんが心底満足そうに微笑む。
ふやけたような笑顔に、ぎゅ、と心臓の奥が縮んだ。


「羊ちゃん、泣かないで」


まだ零れてないから、セーフだと思う。
唇を食いしばって、気持ちを落ち着けようと深呼吸をする。

そんな私を弄ぶように、狼谷くんはもう一度私の手を撫でた。


「ひゃっ……」


ちょっとくすぐったい。
びっくり半分、抵抗半分で彼へ視線を投げる。

狼谷くんはすうっと目を細めて、頬を緩めた。


「――言質、取ったよ?」


喉の奥で悲鳴を上げる。

逃げなきゃ、と腰を上げた私の手を、狼谷くんは案外容易く手放した。


「え、えと、バス来ちゃうから行くね! また明日!」


早口でまくし立てて走り出す。

途中、魔が差して振り返った時に見た彼の瞳は、夜闇のように暗く光っていた。

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