能ある狼は牙を隠す


なぜ私はこんな至極当然のことを高校生相手に説かなければならないんだろう。
呆れ半分、諦め半分。窘めた私に、彼女はなおも言う。


「ないでしょ。玄はそんな感じじゃないし。まあ最終的に戻ってきてくれたらいいかなって思ってたから、二番目でも良かったんだけど……あなたと付き合いだしてから玄、おかしくなった」


話を聞いて、何となくではあるけれど、玄くんと彼女が以前どういった関係にあったのかは想像できた。
出会ったばかりの頃。沢山の孤独を背負った、陰りのある瞳。でもそれは既に過去のことであって、今の彼は決定的に違う。


「おかしくありません。仮にあなたがそう思ったとしても、それを強制するのは違うと思います」


今までの彼も、今の彼も、これからの彼も。全て捨てずに受け入れると決めた。
過去に関わりのあった彼女のような存在を、一ミリも気にしないかと言ったらそれは嘘になる。でも何かしら不満を持ったところで過去は消えない。今の彼が何よりそれを自覚していて、日々誠実に向き合ってくれている。それで十分だ。

だから、私はどんな彼も「おかしい」だなんて、絶対にそんな表現は使わない。


「えー、何。怒ってる?」

「怒ってます」

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