能ある狼は牙を隠す
*
「ふあ……」
すっかり夜も深い街中。閉店後の店から出てきた人影は、気怠そうにあくびを漏らした。
「お疲れだねえ」
その背中が通り過ぎる直前、労いの声を掛ける。
目の前で進んでいた足がぴたりと止まり、双眼が私を捉えた。
「……ストーカーで訴えられてぇのか?」
絞り出された声は低く、彼の機嫌がかなり悪いと一発で分かる。
「こうでもしないと、学校では話してくれないでしょ」
玄が最近バイトを始めたというのは、風の噂で聞いた。流石に職場の特定はすぐにとはいかなかったけれど、今こうして彼と出くわせたのだから、不可能ではないというのは明白で。
「話すことなんてねえよ」
歩き出した彼に、私は投げかける。
「あの子には手ぇ出してないんだ?」
再び足が止まった。振り返った彼の顔が、酷く、私を睨めつける。……ビンゴだ。
彼女と話して、かまをかけて、違和感を覚えた。
いくらあの子が真面目だからって、玄のやんちゃぶりを知らないわけがないだろう。私が玄とした、と言ったぐらいで動揺しないと思っていた。むしろ、自分だってした、と張り合ってくるかと思ったのに。
私の言葉に怯えて、震えて、傷ついていた。
「……何。何でお前がそんなこと言えんの」
「ふあ……」
すっかり夜も深い街中。閉店後の店から出てきた人影は、気怠そうにあくびを漏らした。
「お疲れだねえ」
その背中が通り過ぎる直前、労いの声を掛ける。
目の前で進んでいた足がぴたりと止まり、双眼が私を捉えた。
「……ストーカーで訴えられてぇのか?」
絞り出された声は低く、彼の機嫌がかなり悪いと一発で分かる。
「こうでもしないと、学校では話してくれないでしょ」
玄が最近バイトを始めたというのは、風の噂で聞いた。流石に職場の特定はすぐにとはいかなかったけれど、今こうして彼と出くわせたのだから、不可能ではないというのは明白で。
「話すことなんてねえよ」
歩き出した彼に、私は投げかける。
「あの子には手ぇ出してないんだ?」
再び足が止まった。振り返った彼の顔が、酷く、私を睨めつける。……ビンゴだ。
彼女と話して、かまをかけて、違和感を覚えた。
いくらあの子が真面目だからって、玄のやんちゃぶりを知らないわけがないだろう。私が玄とした、と言ったぐらいで動揺しないと思っていた。むしろ、自分だってした、と張り合ってくるかと思ったのに。
私の言葉に怯えて、震えて、傷ついていた。
「……何。何でお前がそんなこと言えんの」